天然の資源を、シンプルに手づくりすること|【北海道に魅せられた人たち】<粗清草堂>に込められた想い
老舗洋菓子店が作るショートケーキ。
シンプルだけど、純白の生クリームが品をたたえた美しさを放っている。
<粗清草堂(そせいそうどう)>のお洋服は、そんなショートケーキに似ています。
あ、いえ。
<粗清草堂>は、スイーツを作っているわけではありません。
どの牧場のどの品種の羊か追跡できるこだわりの羊毛を、草木染めで染め上げ、手作業でフエルト化して、ウエアやバッグなどを作っている工房です。
草木染め特有の、深みのあるニュアンスカラーが美しく、そして、一目で「作り手が魂と手間ひまかけて作っていること」がわかる作品たちは、思わず手に取ってしまう魅力があります。
ハンガーにかかっている時点で美しい。
それはまるで、端正に表面が整えられたショートケーキのよう。
でも、見ているだけでは、ケーキの楽しみの半分も満たしませんよね?
<粗清草堂>も着てみて、巻いてみて、履いてみてこそ、なのです。
その特殊な技法が作り出す、包まれたような着心地や、どの年代の方にもしっくりときてしまう色合い。
軽くて暖かいという、衣服がおしゃれ以前に持つべき機能性の高さ。
身につけてみて「こんな隠れた素敵ポイントが……?」と思わせてくれます。
それはまるで、思いのほかイチゴを隠し持ったショートケーキのよう。
「『着てみるのと見るのじゃ全然違うんですよ〜。』というよく聞くワードを、これほどまでに実感するお洋服はないな。」と、初めてコートを羽織った時に思いました。
ちょっと、<粗清草堂>が好きすぎて、前置きが長くなってしまいました。(笑)
作品そのものだけでなく、<粗清草堂>の代表・逸見さんが営む、美深の自然にも優しいものづくりと日々の暮らしも素敵なのです!!!!
その魅力を美深町の工房で伺ってきましたので、ご覧ください。
美深移住の前、逸見さんのお子様の幼稚園で、羊毛フェルトに出会った逸見さん。
どんどんと羊毛と羊の魅力にはまり、気付けば、羊毛フェルトクラフトのため美深に移住していました。
一般的にも食用羊の毛は破棄されているのですが、美深には食用羊の牧場があり、その羊毛を活用したいと考えたからです。
自然が豊かな美深に住むことで「この周りの環境を汚したくない」と思うようになったと言います。
天然の資源を、シンプルに手作りすること
廃棄羊毛の利用からスタートしましたが、作品の幅が広がりとともに、海外から渡ってきた羊毛の利用も。
できるだけ牧場の名前まで追える材料で、逸見さんのこだわりに合ったものを使います。
逸見さんの作品は100%天然素材。
身体へ馴染み、地球の循環に組み込まれやすいのは、やはり天然素材だと考えるからだそう。
染めも草木染めにする理由も、同じ理由から。
〈粗清草堂〉では、自分たちで羊毛を草木染めしています。
使うのは、白樺やクルミなど北海道に自生している身近な植物。
同じ素材を使っていても、羊毛の個性によって、助剤によって、何回つけるかによって、色が変わってくるそうで、色の幅を作り出しています。
不思議なことに、草木染めで染めた色は、どんな組み合わせでもしっくりきます。
例えば、グリーン×ピンクカラーのバッグ。
一般的な色の取り合わせとしては、派手かもしれませんが、バッグで見ると統一感があります。
調和のある自然から抽出した色だからなのでしょう。
身につけていて心地の良い、やさしい色合いです。
「雪が溶けたら、牧草地に向かう道を整備して、羊たちが通れるようにして……そんなことをしているうちに、畑の準備や染めに使う草木を採取する時期になって……!やることがいっぱい!」と楽しそうに笑う逸見さん。
※まだ雪が残っている春にお伺いしました。
春がすぎると染めに使う草木を採取し、6月には羊毛を採取。
畑仕事や、羊毛の洗いや染めなどのちょっと大変な作業は、過ごしやすい夏に人を呼んで。
道北の長い冬になれば、工房の中で本格的に製作にいそしむ。
逸見さんのものづくりは、自然のスケジュールにそって巡ります。
自然の変化に耳を傾けて、焦らず一つひとつの工程を重ねていく。
それが逸見さんの「自然と調和した暮らし」です。
自然と調和した暮らしを目指して
「自然の循環システムにうまく溶け込むように暮らす」という理念は、製作活動のみにとどまりません。
逸見さんのライフスタイルに生きています。
工房は、古い馬小屋を友人みんなでリノベーションした建物ですが、使われている断熱材は……なんと羊毛!
外壁と内壁の間に、羊毛シートがぎっしりと挟み込まれていて、道北の厳しい寒さから守ってくれています。
できるだけ自然に還る素材で建てられた工房です。
そんな工房の隣には、バイオチップボイラー。
おがくずを円柱状に積み上げ、微生物の発酵の力で熱を作ります。
夏は、これ以外のボイラーを持たないそうで「去年は失敗したから、暖かいシャワーは浴びられなかった!」と笑う逸見さん。
このほか、バイオトイレや無農薬・無化学肥料不耕起栽培での家庭菜園など、自然と共存する暮らしの取り組みが、工房兼住居にいっぱい。
やっていることは”ストイック”。
でも、頑張ってやっているという感じではなく、いろいろな大変さも楽しんでいる逸見さんの姿が素敵で印象に残りました。
ふわりとやわらかな逸見さんのストールや洋服
〈粗清草堂〉しっぽショール 税込21,120円 ※写真はイメージです。
逸見さんの製法は、ガーゼで一旦洋服を作ってから、その上に羊毛を重ねて一体化させるという手法。
少し手間がかかっても、フェルトを作ってから成形するのではなく、先に土台で成形してからフェルト化させる手順で行うのも逸見さんのこだわりです。
布があることで、薄くてもしっかりとして暖かい生地となります。
ストールや洋服が、驚くほどやわらかな風合いなのは、このおかげです。
縫い目がなく、一体化しているウエアは、見た目の良さだけではない、羽織った時の心地よさがあります。
逸見さんの目指す「生きている服」の意味を、是非、実際に触れて体感していただきたいです。
\北海道に魅せられた人/
逸見吏佳さん
北海道江別市出身。フェルト工房〈粗清草堂〉の作り手。作品は国内にとどまらず、海外からも評価を受ける。自然豊かな美深にいながら、ネットやウーファーを通じて、同じ感性を持つ人とワールドワイドにつながっている。そんな外に向いた目もエネルギッシュで素敵な方です。
「北海道に魅せられた人たち」
会期:1月25日(水)→1月31日(火)
場所:松坂屋上野店 本館1階北口イベントスペース
独自の歴史・自然・風土をもつ「北海道」。
そんな北海道に魅せられた、ものづくりの人々の作品をご紹介するイベント「北海道に魅せられた人たち」の開催まで、作り手の方々を紹介しながらカウントダウンしていく連載ブログです。
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